「この座談会出席者のひとりの東海林さだおが”伊丹さんはこの世に生きがたい人で、見ていて痛ましい”という文章を山口瞳が書いていた、と話を振ったんです。なにしろ山口瞳といえば伊丹と宮本信子の仲人を努めた人物だからね。ところが驚いたことに、大江は憮然としてこう答えたんだよ。『僕は山口瞳はきらいです』と」(文芸誌編集者)(同p.64)伊丹に恩がある山口瞳のことを嫌いだと言うほど大江さんは伊丹十三を嫌っているといいたいわけでしょうが、これまた間違い。この座談会は小説現代1999年7月号のものですが、大江さんは「山口瞳が嫌いでした」と言ったあとに、こう続けています。「確かに、伊丹のことを非常に優しく書いていられる。でも、優しいふりをして意地悪な人がいるんです。親身なようなことばかり言うけれど、心の中に冷たいものを持っていて、それがある人間だけに照射されるような人が。それが山口瞳さんと伊丹十三の関係だったのじゃないか。」 つまり、大江さんは伊丹十三のことを思いやったうえで、山口瞳を嫌いだと言っているのですね。
September 19, 2007